表裏一体の化学 -書評- マリス博士の奇想天外な人生
2012/12/15
なにこれすごい本の真髄を見てしまいました。
キャリー・マリス。DNA増幅装置であるPCRを発明し、ノーベル化学賞を受賞した男のお話。
なにこれすごい
ノーベル賞を受賞した人間というのは、小さい頃から1に勉強2に勉強の日々かと思ってました。いや、実際そうでしょう。
この人がちょっとおかしい人なのです。
ノーベル賞を受賞してホワイトハウスに招かれた時に、当時マリファナ吸引疑惑のあったクリントン大統領に向かってマリファナの質問をしようと企んだり(実際はできなかったらしい)、レーザーポインターをタクシーの運転手の胸に向け、ライフルの光と間違えられて警察沙汰になったり。
他にもゲラゲラ笑えるエピソードが満載の前半部分で完全に打ちのめされました。
後半部分はそんなのほほんとしたエピソードとは打って変わって、かなり本気の主張。エイズに関することや温暖化に関することなど、間違った「常識」を一刀両断しています。
奇想で天外。1冊で2度美味しい文庫なのは間違いなし。
一言で言えば「なにこれすごい」本。
化学者の脳内
普通の人が本を通じて「普通」を痛感して落ち込むくらい、普通のことをしない人(=マリス博士)でも、普通の言葉を書くことはできます。ただ、マリス博士の背景を本書で知った人にとって、その言葉は重くて強いのです。
人類など巨大な岩石の表面に薄く生えているコケのようなものだ。人類は思考し、言葉を操る特別な生物で、その数を増加させている。
しかしこの地球の運行をピクリとも変化させることはできない。
P.314
マリス博士は上記の言葉を本書に書き写すまでに自身の心情、感情の多くをさらけ出しています。
それでも地球の運行を変化させることができないと自身は語っています。でもこの本を読んで僕の心は揺り動かされました。
マリス博士は地球の支配よりも大切な物を知っているのでしょう。地球ではなく心を動かす。それが人類にとっての進歩であり安らぎに繋がることを知っているからこそ、本書を書いたのだと思います。
人類ができることと言えば、現在こうして生きていられることを幸運と感じ、地球上で生起している数限りない事象を前にして謙虚たること、そういった思いとともに缶ビールを空けることくらいである。
P.315
本書を日本語で、かつ文庫で読めるということ以上の幸運はなかなかないです。読み終えた時に見える景色は格別。
目次(Amazonより)
デートの途中でひらめいた!
ノーベル賞をとる
実験室は私の遊び場
O・J・シンプソン裁判に巻きこまれる
等身大の科学を テレパシーの使い方
私のLSD体験 私の超常体験
アボガドロ数なんていらない
初の論文が「ネイチャー」に載る〔ほか〕
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